「処理」なんかできないのに何を急げというのか
先日、所用があって福島へ行ってきた。原発から30キロほどの場所である。辻に立つ線量計は、東京の10〜20倍の数値を示していたが、携えて行ったカウンターはさらにその数十倍の値を表示した。
選挙期間とあって、共産党の看板が立ち、その隣に一回り大きい自民党候補の看板が立ち、そのまた隣に三回り大きな「除染中」の立て看が置かれていた。「除染中」の赤い字はところどころかすれていた。
そこから100mほどの場所で、削られて赤肌を見せる山裾に、黒々とした腫瘍のような汚染土の詰まった袋が積み上げられていた。
住人は皆一様に親切で、東京から来たと知ると、口々に「福島はいいところですよ」「何を食べても安全ですよ」と言いつのる。通りすがりの買い物帰りのお婆さんですら、そう口にした。
けんちんうどんや地元野菜の天ぷらを食べ、山陰の民宿に泊まった。手元のカウンターはさらに数値をアップさせていた。
日経さんは顎を突き出して命令だけする奴隷監督官のように、「急げ」「早くしろ」とだけおっしゃる。
国は福島県を汚染土の最終処分地にしないと約束している。だが中間貯蔵施設の運用終了後、汚染土を県外に運び出す見通しがあるわけでもない。
この状況で何を「急げ」というのか。
日経さんが急ぎたいのは原発の再稼働だけだろう。
現地の作業所で聞いたところでは、いくらやってもキリがない、あと何年かかるやらさっぱり先が見えない、ということだったが。
ハイエクが今の中国を見たらなんと言っただろう
中国に対する日経さんの懸念は概ねもっともなものだが、それは普段に日経さんが主張するところの「自由」経済の主張について、疑問を呈せざるを得ないものとなっている。
明らかな独裁を強めつつも、それに対して一時期のような(反日デモが繰り広げられた時のような)不安定さが消えつつあるのは、もはや誰も否定しようがない急激な経済成長を成し遂げたことと、それに伴って生じた激烈な格差の拡大が収縮しつつある(消え去ってはいないし、永遠に消え去ることはないだろうが)ことによるだろう。
果たして、独裁と自由経済は親和するのか、どうか。
それについては、「自由」の守り手を自認するハイエクは、このように述べていたそうだ。
As you will understand, it is possible for a dictator to govern in a liberal way. And it is also possible for a democracy to govern with a total lack of liberalism. Personally, I prefer a liberal dictator to democratic government lacking in liberalism.
「…ご存知でしょうが、独裁者が自由な政府を作ることもありますし、同様に民主的な政府が自由を阻害することもあるのです。個人的には、自由な独裁者の方が不自由な民主主義よりマシだと思いますがね。…」
ハイエクが独裁者ピノチェトを賞賛していた、というブログ・エントリーは数年前に見ていたのだが、それ以降も論争が続いていたとは知らなかった。全くこれはうっかりしていた。
それはともかく、上記のハイエクのセリフをこの部分だけ取り出してみると、現在の習近平による中国とトランプによるアメリカを比べた場合、ハイエクは中国の方に旗を上げるに違いない。うざったいくらいに「保留事項」を付け加えた上で、となるだろうが。
実際、こと「経済」に関しては、グローバルな視点からは、中国こそが自由経済の守り手、という立ち位置になっている。
日経さんもハイエクと同じく自由経済至上主義を貫くなら、「中国ホーイモー」などという幼稚な思惑から外交を繰り広げる現政権について、態度を改めるのが筋というものだ。
さらには、その実態は「中国ホーイモー」である、という言い訳によって「保守」陣営を取り込んだTPPについて、アメリカに替わって中国を取り込むことを、真剣に提案すべきではないだろうか?
つまり何が言いたいかというと、日経さんの「自由経済至上主義」は、それほど徹底したものではなく、旧来の「保守」をそれよりも優先する程度のものだ、ということだ。
では、「保守」のもとでも自由経済は機能するだろうか。
日経さんは、機能するし現にしている、と言い張るだろうが、現状でその「自由」を満喫しているのはごく一部の人間であり、経済は「規制」ではなく「歪曲」されている。
このような状況下にあって、それをもたらす元凶を「信じている」態度に、まずは反省が求められてしかるべきではないのか。
私個人としては、独裁下においてどんな「自由」が許されていようが、それは後頭部に常に銃口を押し当てられた上での「自由」であり、全くもって願い下げだということだ。
たとえ不自由であっても、民主体制の方が将来に希望が持てる分、マシであると考える。
しかし、現在の日本はそうでもない人が多いようだ。
なかなか良い選挙だった
今回の選挙、またまた与党大勝利だそうで、きっとあっち方面はウケに入ってるのだろうと思うが、それでもなかなか良い選挙になった。
改めて、モリカケから逃げるためだけに解散を強行したあべぴょんと、ユリコ&セイジの夫婦漫才で野党を分裂させたお二方には礼を言いたい。
これでぼやけていた輪郭線がくっきりし、日本人にはまだ考える力を持つ人たちが一定数いることがはっきりした。
で、何があろうとあべぴょんを「信じる」日経さんだが、お気の毒なことにこれで日経さんが大好きな「改革」について、あべぴょんが真剣に取り組むことはなくなるだろう。
そんなものより「改憲」が先だ、とばかり躾の悪い座敷犬のように、改憲へ向かってまっしぐらに行ってしまうのは、これまでの経緯からしても明らかである。
後、ついでにお友達政治も復活し、加計は何事もなかったように承認され、もしかすると、稲田ともみんの復活もあるかもしれない。
そして国会では改憲が発議されて、立憲民主と共産が抵抗するも議会を通過し、マスメディアは改憲賛成へ向けて一色に塗りつぶされるわけである。
なんか悪い予想ばかり書いているが、それでも今回存在が明らかになった一定数の人々がいる限り、日本はまだまだ大丈夫だ。
こうしてはっきりとした形で目に見える、というのは重要なことである。
今まではミンシン党に巣食う腐った連中のおかげで、それが明瞭にはわからなかった。
その点、ユリコ&セイジには重ねて礼を言いたい。これこそが本来の意味での「希望」である。
さて、前回の選挙では「自民党を勝たせすぎた」という声が有権者から上がったが、今回はどんなもんだろうか。だいたいみんなこうなることは薄々予感していただろうから、そのような猿でもできる「反省」などはしないだろう。
今回はとにかく「野党が悪い」で済ませることができる。
だがやがて、小林秀雄の言う歴史意識として、「とんでもないことをしてしまった。どうしよう」と感じることになる。とりあえず今は、ユリコ&セイジの二人がそれを感じているわけだが。
そのうち日本だけでTPPすることになるんじゃないの?
今日はせっかくなので、一昨日の社説を取り上げたい。
日経さん、というか、日本のマスコミや財界が熱心なTPPについて、悲報がもたらされたからだ。
ニュージランドで政権交代があって、どうやらTPP見直し、場合によっては脱退も視野に入れている、とのことである。
これに対して日本側は、「10カ国ででもやる」と、あくまでTPPにしがみつく意向だ。
ニュージーランドはただの参加国ではなくて、日本とオーストラリアと共に「先導役」に位置付けられている、らしい。
「らしい」というのは、勝手に日本側が位置付けている「らしい」からだ。
日本は「TPP絶対反対」を掲げて選挙を勝ち抜いたとこが政権党になっているはずだが、いつの間にやら一番積極的な旗振り役である。
アメリカが抜けた今、ニュージーランドも、そしてオーストラリアも、かつての熱は冷めていると聞くが。(日本では逆のことを書いてる人もいるけどね)だいたいニュージーランドは、かねてから腰が引けていて、あれこれと注文が多かったんだから、ここで抜けても何の不思議もない。
で、日経さん、というか、日本の財界の目論見なんだが……
TPP11が発効すれば、今後の米国との交渉戦術にも有利に働く。米国は今後の2国間交渉で自動車、農産物など個別品目で日本に市場開放を迫ってくるだろう。
TPP11が発効していれば、日本がそこで受け入れた自由化措置の水準が基準になる。さらに、TPP11があれば、米国に将来枠組みに戻ることを説得し続けることができる。
一昨日の時点でも、随分混乱したことを言ってるな、という感想だった。
だいたい日米FTAは日経さんも昔は大賛成だったじゃないか。自動車・農産物の市場開放だって「構造改革」の一環じゃなかったっけか。
トランプが「アメリカ・ファースト」の保護主義を掲げているから、ということなんだろうが、そのトランプと仲良しアピールをしているのは、どこの国の首相だったっけ?
トランプがあべぴょんとの会談のすぐ後にTPP脱退したのは全くお笑いだったが、あべぴょんはその後もトランプにすり寄るばかりだ。
無駄にプライドの高いアレのことだから、てっきり激おこぷんぷん丸(最近憶えたネット用語)で、トランプと距離を置くかとと思ったら、全くそんなことはなかった。どうやら、「お仲間」認定した相手には、限りなく卑屈になれるらしい。
そんなあべぴょんがどんなにヘマをやらかしても「信じて」ついていく日経さんなわけだが、あんな卑屈のカタマリが首相なら、日米交渉はとてつもなくスムーズに運ぶことだろう。日本が限りなく譲歩するからだ。
それをまた「安倍外交は百点満点!」と褒めそやさねばならない人たちの苦労が今から偲ばれるわけだが、「TPPを早くでっち上げて、それでもってアメリカに圧力を」という日経さんの物言いなんかは、その苦労をすでに先取りしたような「無理」がある。
前々から言っているように、もしTPPが「環太平洋共同体」を形成するためのものなら、諸手をあげて賛成したい。だが、実際そんな動きはノミのすね毛ほどもない。
さらに、FTAが結ばれるなら、双方の国家間での「政治」の敷居も下げるべき、というか理想的には無くすべきだが、そのような例は聞いたこともない。
現実の「経済」は常に政治とセットになっており、単独で扱うと鎖を切ったピットブルのように、そこら中の動物を噛み殺してしまう。
経済を政治から切り離して扱うのは、経済学者様の論文の中だけにしておいてもらいたいものだが。
アメリカとイラン∽日本と北朝鮮
せっかくの合意を破棄しようというトランプの動きは、オバマ外交の成果を貶めること、米国内に根強くある反イラン感情に訴えること、それによって支持率を高めようという目論見がある。
イランとの間に「敵対的共犯関係」を結ぼうと必死に「ラブコール」しているが、現政権は思春期真っ盛りだった前アフマディネジャド政権よりずっと大人なので、なかなかスムーズにいかないようだ。
こうした幼稚な外交は、問題をこじれさせるばかりで、さっぱり解決には向かわない。しかし、トランプはそれで構わないのだろう。問題は外交より、自分の国内での人気だからだ。
大衆の抜きがたい「憎悪」に乗っかった政治をしようというのは、日本という成功例があるため真似しようとしているのではないか、と思える。日本と北朝鮮の間にある「敵対的共犯関係」を見習って、ミサイルを「愛の証」にしてしまえば、思う存分ラブレターを受け取ることができるのだ。
実際、アメリカとイランの間に横たわる「憎悪」は、日本と北朝鮮の間にあるそれと相似している。
さて、ここでもう一つ、比喩ではなくリアルな問題がある。
北朝鮮とイランの間にパイプがある、ということだ。
アメリカが今後、北朝鮮の「ラブコール」にどのような態度をもって臨むのか、予断を許さないところである。
しかし確実に言えるのは、ここでイランとの核合意を廃棄するなら、それは明らかに北朝鮮を利する行為だ、ということだ。
イランが産油国であることを忘れているのだろうか。
そのせいでまたも北朝鮮が元気付くなら、それによって日本の現政権の支持率がアップするだろうから、日本の「保守」にとっては都合がいいんだろうがね。
ライオンは寝ぼけている
JPX日本取引所グループというのは、アベノミクスの「緩和」の流れに乗るような形で出来てきた。東証と大証を経営統合して発足したわけだが、その際に監査する機関も必要だ、ということで「自主規制法人」というスリーピングボードをしつらえた。長らく「仕事するフリをするのが仕事」のように揶揄されていたが……
おそらくLCAHDのことじゃないかと思うが、速やかだったか?あれ。
ともあれ、やっと仕事するようになってきたかな、と思ったところでコレである。
問題は、制度の運用が大企業を優遇していると疑われかねないことだ。
疑われかねないって、とっくにそう思ってるよ、みんな。
日経さんだって、そうでしょ?
とは言え、その責任を全部自主規制法人という間の抜けた名前の部署に押し付けるのは、ちょっと筋が違うのではないか。
だいたい、アベノミクスとやらで株式市場を「ゆるゆる」にしたことが、市場からスクラップ&ビルドの機能を奪っているからだ。
アベノミクスに批判的な人ですら「金融緩和は成功」と物分かりのいいようなことを口にするが、年数が経ってぶよぶよになった市場は腐敗し、そこら中にウジが湧いている有様である。
そんなところへ個人投資家を呼び込もうとか、晴れ着で肥溜めに飛び込ませるようなものだ。
あべぴょんのやっていることは、一事が万事引き締めた手綱を緩めることであり、JPXへの統合もその流れに乗ったものだ。
よく新自由主義者(日経さんも含む)が「格差の何が悪いの?」というようなことを口にするが、その答えとして「バカが増える」に加えて「富裕層が腐敗する」を挙げることもできるだろう。
じゃ、とりあえず生活保護倍増しろ
地方の「自立」だそうである。
もはや自らの足腰では立ち上がれないほどになっていることを知りながら、もっともらしくこうしたことを言いたれるのだ。
その言の向こうには、自立のために「原発を受け入れろ」「加計学園を認可せよ」ということが見えてくる。
そんなことをいくらやっても、自立なんか出来はしない。問題はもっと別にある。
今まで日経さんはわざとアホのふりをしているのか、と買いかぶっていたのだが、もしかすると本当にアホなのかもしれない、と最近思い始めた。日経さんに付き随う評論家の皆さんも同様である。
なので、今回はアホにもわかるように要点を述べる。
だいたい地方がどんどん疲弊したのは、再分配が機能していないからであり、つまりは福祉を削りすぎているからだ。
日経さんは普段から福祉を削れ削れとわめきながら、地方の疲弊に対して「どうしてこうなるんだろう」と思案顔である。
アホか。地方から吸い上げるばかりで再分配しないなら、こうなるのは当たり前だ。
地方をどうにかしたいのなら、福祉を手厚くすること、具体的には国から直に生活保護を倍にすることだ。
「そんなことをしたら働かない奴が増える」などと、井戸端会議レベルのみみっちいことを言ってるから、地方がくたばっていくのだ。
働こうとしても働く場所がなければ、都市に行って働くしか無くなる。地方に止まる人間を増やしたければ、生活保護をきちんと払っておけ。そうすれば、とりあえず都市への人口移動にブレーキがかかる。
断っておくが、BIなんぞゴマカシにしかならない。それでは「再分配」にならないからだ。
とにかく、国家による「福祉」を手厚くすることが、地方の疲弊に歯止めをかけることになるのだ。
あとそれから、
分権とか、今更もう遅い。遅まきとんがらしもいいところだ。
いっそ、一度お蔵入りになった「首都移転」くらいやったほうがいい。