とかくジェンダーというものは

 娘が幼い頃、バレエ教室に通わせていた。バレエ教室には発表会というのもがあり、子らの親たちは「母の会」に入り、裏方として支えることになる。それほど有名な教室ではないのでチケットの割当などはなかったが、会場のスタッフへの配慮や花束の手配等々、細かな雑務はたくさんあった。

 役員の順番がめぐってきたので、発表会前の役員会に参加した。場所はとあるファミレスである。母親たちは手慣れた様子で、発表会の手順と役割をてきぱきと決めていき、私が参加する必要などどこにもないかのようであった。

 ところが最後になって、受付の時間割に一人分空きができてしまった。どうしよう、と母の会の面々が顔を見合わせているので、私は初めて発言した。

 「あ、それじゃ、そこは私が」

 その時、不思議な現象が起こった。時間が凍ったのだ。

 幼い頃に見たアニメで「スーパー・ジェッター」というのがあって(まだモノクロだったな)、「タイムストッパー」というのをかけると周りの時間がストップし、自分だけが動けるようになる、ちょうどあんな感じになった。

 ややあって別な母親が「あ、それなら私が」と手を挙げると、ふたたび時間が動きだした。私の発言への反応は一切なかった。

 そうして私は、バレエ教室にとって「男親」は異物でしかないのだ、と思い知ったのだった。役員は妻に代わってもらい、発表会はつつがなく終了した。

 

 昨今は「食育」というやつが盛んである。娘の通う学校でもPTAを対象に「食育教室」が開かれることとなった。妻の仕事の関係もあり、夫婦揃って参加した。昔なら父親の参加はありえなかっただろうが、私以外にも父親の姿がちらほら見受けられた。

 退屈きわまりない講義の後、事前に書かされたアンケートをもとに、個別の面接指導を受けることになった。アンケートの設問の中に「朝食をとる頻度は?」というものがあり、

 「毎朝かならず食べる」

 にチェックした。指導員はそこを見てにっこり笑った。

 「えらいですね、お母さん。なかなかできることではありませんよ」

 仕事を持つ妻への配慮ある評価であった。が、そこへ私が口をはさもうとすると、妻にヒジで小突かれた。指導員はそれに気づかなかったか、気づかないフリをしたのか、次の設問へと話を移していき、面接はスムーズに終った。

 えーと、その、朝食の用意はずーっと「私が」やってるんだけど……

 もちろん、献立の組み立ても食器の片付けも全部。そして朝食を作ったあと、妻と娘をたたき起こすのも私の役目である。(他にもやっていることはあるが、それはここでは省く)

 

 学校からの帰り道、憤懣やるかたない私に、妻はカフェでコーヒーとなんとかパウンド・ハンバーガーとやらをおごってくれたのだった。まったくもう。

 


From Up On Poppy Hill - Breakfast Song (Asagohan ...