アップルタイザーの味
アップルタイザーというジュースの存在を知ったときは、まだ大学生だった。
その時はまだ、社会問題というものへの関心はオブラートより薄く、南アフリカという国がどんな問題を抱えているのかも知らなかった。
「一ビンにリンゴ六個分の果汁が濃縮されている」というふれこみだったと思う。飲むと口の中だけでなく、身体中がすっきりするように感じた。
そのジュース行きつけにしていた喫茶店のメニューにあって、行く度にたのんでいた。
やがて、南アフリカの現状を知るにつれ、アップルタイザーを飲まなくなり、自然とその喫茶店からも足が遠のいた。
しばらくして、その喫茶店が店を閉じたことを知った。別に自分のせいでないことはわかってはいたが、青臭い学生らしく多少胸の痛みを覚えた。
当時、日本は南アフリカという国にはほとんど関心がなく、貿易相手として商社マンがとばされるところ、という程度の認識だった。
だから、学生相手の喫茶店がアップルタイザーをメニューに出していても、「ちょっと他と違ったジュースをメニューに載せている」というだけのことだった。
経済大国でエコノミック・アニマル(死語)の日本は、南アフリカでは「名誉白人」の扱いを受けていた。
「名誉白人」すべての誇りを投げ棄て、恥しか残らないような称号だ。
ネルソン・マンデラは、日本という国についてどう思っていただろう?
きっと、「馬鹿な国だ」くらいにしか考えなかっただろう。
久々にアップルタイザーを飲んでみようかと思っている。