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オツベルと象と日経さん

日経 サルの論理

www.nikkei.com

 生産性を高めるうえで重要になるのは働く人が新しい技能を身につけることだ。春の労使交渉は正社員のほか非正規社員についても能力開発の進め方など人材育成策を議論するいい機会になる。 

 

 何やら一応もっともらしくはある。

 しかし、この部分を読んでいるうち、ふと宮沢賢治の『オツベルと象』(昔は「オッペル」だったな)を久しぶりに思い出した。(以下青空文庫より)

 

「おい、お前は時計はらないか。」丸太で建てたその象小屋の前に来て、オツベルは琥珀のパイプをくわえ、顔をしかめて斯ういた。
「ぼくは時計は要らないよ。」象がわらって返事した。
「まあ持って見ろ、いいもんだ。」斯う言いながらオツベルは、ブリキでこさえた大きな時計を、象の首からぶらさげた。
「なかなかいいね。」象も云う。
くさりもなくちゃだめだろう。」オツベルときたら、百キロもある鎖をさ、その前肢にくっつけた。
「うん、なかなか鎖はいいね。」三あし歩いて象がいう。
くつをはいたらどうだろう。」
「ぼくは靴などはかないよ。」
「まあはいてみろ、いいもんだ。」オツベルは顔をしかめながら、赤い張子の大きな靴を、象のうしろのかかとにはめた。
「なかなかいいね。」象も云う。
「靴にかざりをつけなくちゃ。」オツベルはもう大急ぎで、四百キロある分銅を靴の上から、穿め込んだ。
「うん、なかなかいいね。」象は二あし歩いてみて、さもうれしそうにそう云った。 

 

  このようにして、オツベルは自分に都合のいいもの、つまりは白象を縛り付けておくものを身につけさせようとする。

 お人好しの白象は欲深なオツベルの言うがままに働く。

 

「済まないが税金も高いから、今日はすこうし、川から水をんでくれ。」

 

「済まないが税金がまたあがる。今日は少うし森から、たきぎを運んでくれ」

 

「済まないが、税金が五倍になった、今日は少うし鍛冶場かじばへ行って、炭火をいてくれないか」 

 

 どんなに白象がすばらしい能力を発揮しようが、生産性を天井知らずに高めようが、労働に喜びを見いだすことで満足しようが、オツベルはいっさいかまわず白象を酷使する。

 

 生産性を高めるうえで重要になるのは働く人が新しい技能を身につけることだ。春の労使交渉は正社員のほか非正規社員についても能力開発の進め方など人材育成策を議論するいい機会になる。

 非正規社員を、短時間勤務や勤務地限定の正社員に登用することも検討すべきだ。責任が強まることで、持てる能力をより発揮できる場合もあるだろう。

 

 有名な童話だから、ラストをご存知の方も多いだろう。

 白象はついに死ぬばかりになる。白象を助けるため、仲間の象たちが押し寄せ、オツベルはとうとう潰されてしまう。

 

 しかし、現実にはオツベルが罰を受けることはない。

 本当に必要なのは、労組による穏やかな交渉より、デモでありストであり、その怒りを顕示することなのだ。

 

 

オツベルと象 (日本の童話名作選シリーズ)

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オツベルと象―版画絵本宮沢賢治

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