日銀とGPIFによって毒殺される「モラル」

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「アクティビスト」と呼ばれるもの言う株主の活動が米国市場で活発になっている。企業への要求は様々だが、共通するのは資本を効率的に使い株主価値を高めるよう求める姿勢だ。 

 

 結局「株主の言うことをきけ」に行き着くわけで、どこが「多様」なのかさっぱりわからない。人数が多いとかそういうことなのか。

 

米国市場の最近の注目すべき事例は、代表的なもの言う株主の一人であるネルソン・ペルツ氏が、日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)に対して、自身を取締役に選任するよう求めたことだ。背景には、P&Gの株価推移や業績の伸びが鈍いことへの不満がある。 

 

 この実例などは、経営者のうんざり顔が目に浮かぶようだが、この時点で「意思疎通」などというお上品な段階はすでに過ぎ去っている。こちらの意思がどうだろうと、「俺の言うことをきけ」というジャイアニズムに「疎通」などという猶予は求められない。まさかと思うが、日経さんは「通すことを疎かにする」の意味だと考えていないだろうな。

 

 今回の日経さんの「株主のいうことをきけー!」な社説だが、「ああ、またこれか」と思わないでもないけれど、いったい日本の株式市場の現状にそぐうものかどうか考えたことはないのだろうか。

2016年は海外投資家がリーマンショック時並みに日本株を売り越し

東証がまとめた統計によると、2016年は海外の投資家の日本株に対する売り越し額がリーマンショックのあった2008年並みであったことがわかった。

 ある投資主体が株式を買った金額から売った金額を引き、それがマイナスになっていた場合を売り越しという。東証のまとめによると、2016年は海外投資家が日本株を3兆6887億円売り越していた。

 リーマンショックのあった2008年は3兆7085億円だったので、その年とほぼ同じ金額の売り越しだったことになる。

 その一方で日銀が「異次元緩和」政策で行っているETFの購入が、4兆6016億円に上っていた。日銀は去年半ばに購入額を増やし、現在では年間6兆円としている。海外投資家は売り越していたが、日銀の大量の買いが株価を支えた形になった。

 

 リーマンショック並みの売り越しを日銀が抑え、さらにはGPIFによって積み増して現在の2万越えの日経平均が維持されているのだと言える。

 これを健全と言えるのか、いっそ「市場」はなんでもありだから「これでいいのだ」と開き直るのか、いずれにせよそこにあるのは、「株価さえ上がれば後はどうでもいい」というモラルの死である。

 

 現状、日本の年金は崩壊の危機にあり(すでに崩壊しているとする人も多いが)、その危機を脱するためにGPIFによる株式投資の比率を上げた、ということになっている。

 それによって、株式相場の値上がり=年金、という構図が出来上がっている。

 ここで新たにもたらされたのは、年金を使って投資家を儲けさせたということではなく、投資家が儲けることが即ち年金安定に繋がる、という視点である。

 投資家の儲けが国民一般の生活に直結する度合いが、無視し難く巨大になることによって起こるのは「労働の軽視」である。

 真面目にコツコツ働くより、株の売買で稼ぐ方がただ「賢い」というだけでなく、倫理的にも上回る「善」であると考えることだ。

 それは格差を善とし、その拡大と固定化を、必要悪ですらなく必然的な「善」とする「思想」に繋がってくる。

 新自由主義的な思考は絶対的なものとして肯定され、視線の延長線上に「弱者軽視」があり、その果てはあべ信者による障害者殺戮と同じ地点に行き着く。

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「意思疎通ができない人間を安楽死させるべきだ」などと独善的な主張で自分を正当化する一方、事件に至った理由は曖昧でちぐはぐな印象。遺族らへの謝罪の言葉はなかった。

 

 極論にすぎるかもしれないが、現在の日本の株式市場で行われているのは、そうした「毒」を「元気になるクスリ」として注入することなのだ。

 

 こうして考えてみると、戦前の高橋是清による「リフレ」(インフレ景気)が、その後の赤紙一枚で人命を大量消費した日本軍の価値観を形成したとも言える。

 このような日本の現状において、「株主のいうことをきけ」というような日経さんの物言いは、すでに縁側ぽかぽかひなたぼっこのようなのんびりしたものでしかなくなっているのだ。

 

 株式を「賭場」と捉え、そこに年金を突っ込むことの良否を問うだけなら、株が値上がりするに連れてその言は効果を失う。

 生活保護受給者がパチンコをしているとして、全員がそのパチンコで「勝って」いたなら、その批判は当たらない(もう古びつつ言い回しだ)ということになるだろう。

 問題はその背後にあるモラルの崩壊であって、それはGPIFが年金で儲けていようが損していようが関係ないものなのである。

 

 なお、高度経済成長を経験した世代の多くが株式市場を「賭場」と見做すことが多いのは、当時の株式の成長が社会の成長よりずっと低位にあったことからきている。

 まず社会の成長があって、それに経済の成長(株の値上がりも)があるべきであって、その逆は社会に有害でしかない。

 戦前の例(是清のリフレ)を鑑みるなら、それは致死性の「毒」であるとすら言えるだろう。

 

ニッポン列島毒殺事件簿

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