日本を真っ黒に塗りつぶしたい日経さん
この社説を読んで要点がパッとつかめる人は少ないだろう。
タイトルにある「中小企業の後継者不足」について、なぜそのようなことが問題となるのか、ということは口を閉ざしているからだ。
日本の中小企業の実態は「大きな自営業」であり、その後継は世襲がほとんどである。
そのことについては
親族内の承継では贈与税や相続税の支払いを猶予する制度がある。現在は雇用の8割以上を維持することなどが求められ、こうした条件を見直す余地はある。
国からもそれを容認する制度があり、日経さんはその優遇措置を見直せ、とおっしゃる。
だが、ちょっと考えてみてほしい。そんな優遇措置もあって、会社のあとを継げるのなら、なぜ「後継者不足」などが起こるのか?
で、日経さんはこんな「試算」を掲げてみせる。
2025年には6割以上の中小企業で経営者が70歳を超え、このうち現時点で後継者が決まっていない企業は127万社あると経済産業省は試算している。
アホか。2025年で70歳なら、「現時点」は60代なわけで、後継者を決めていないなんてのは普通にあることだ。農家の高齢化問題が、実は「兼業」なら当たり前のこと、というのと似たようなもんである。
さらに「大きな自営業」の中で早々と後継者を決めたりすれば、トラブルの元になるということもある。社長がワンマンだったりすると、特にその傾向がある。
それから、明日をも知れぬ小規模事業なら、後継者なんぞ決まってる方がおかしいというものだ。
ちなみに、日本の中小企業の総計は380.9万社と言われ、そのうち小規模事業は325.2万である。
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/PDF/h29_pdf_mokujityuuGaiyou.pdf
逆に、半分以上の事業で後継者が決まってるとか、随分多いと思わされる。
さらに日経さんは、「後継者不足」にはこのような問題点があるとおっしゃる。
休業・廃業や解散をする企業の5割は経常損益が黒字だ。経産省によれば、廃業の増加によって25年までの累計で、約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性がある。
バカか。もはや「後継者でんでん」とか、なんの関係もない。
日経さんが言いたいのは、要するに中小企業のM&Aをもっとどんどんやらせろ、ということである。
そのための動機として、ありもしない「後継者不足」を持ち出してきたのだ。
前々からM&Aなんてのは、スタイリッシュな人身売買じゃないか、ということを書いてきたが、中小企業ではそれが一層顕著となる。
とにかく乗っ取った側は、それにかかった金をできるだけ早く回収しようとするので、乗っ取られた側はほとんどブラック企業と化してしまうのだ。
これは揣摩憶測の類ではなく、実際義理の叔父が経営していた会社で起こったことである。ある日突然TOBで乗っ取られたのだが(日経さんにも小さく載った)、それから会社はまるで「くず肉製造器」のようになってしまった。エネルギッシュだった義叔父は見る影も無く老い、黒々とした髪は真っ白になり、しぼんだ頰を老人斑がべっとりとおおっていた。
日本中の中小企業を真っ黒に塗りつぶしたい、というのが日経さんの願いなのだろう。