ばんざーいとまんざい

 大学時代、クラスにのりお君というのがいた。

 クラスでのりお君は、いいやつなんだが少し暑苦しい、夏場のピレネー犬みたいな立ち位置にいた。

 ある日、そのたいして親しくもしてないのりお君から「うちで飲まないか」と、やや強引な誘いを受けた。ヒマだったし、強く断る理由もなかったので、行ってみることにした。まあ正直な話、費用は全部のりお君がもつ、というのにひかれたのだ。

 のりお君のうちは下宿ではなく、一戸建ての自宅だった。両親は今日はいないとのこと。中に入ると、すでに三人の男子と一人の女子がテーブルを囲んでいた。テーブルの上には、どこかの総菜屋で買ったおかずがならび、人数分のビールには紙コップがかぶさっていた。

 まねかれた連中は、私も含め、顔は見知っているがそれほど親しく会話したことがないメンツだった。席に着くとぎこちない笑顔をかわし、無言でコップにビールをついだ。

 のりお君一人が上機嫌で、みんながコップを手にしたのを確認し、乾杯の音頭をとった。

「かず子ちゃんの20歳の誕生日に、かんぱーーーい!!!」

 呼ばれたみんなは一瞬「え?」と顔を見合わせた。当の唯一の女子「かず子ちゃん」を見やると、一番びっくりしているようだった。

 のりお君が得意満面で語るには、このパーティーはのりお君がかねてから気にかけているかず子ちゃんの誕生日を祝うためのサプライズだ、ということだった。

 ウンザリ顔でぬるいビールをすする皆を尻目に、のりお君はギターを持ち出して「かずこちゃんの誕生日を祝う歌」を歌いだした。もちろん、のりお君のオリジナルだ。ギターはまあまあ上手だった、というのが救いだった。

 あの時のかず子ちゃんのこわばった表情と、のりお君の得意気な顔は今も忘れられない。

 

 かように、喜劇と紙一重の悲劇は見る側を恥ずかしい気持ちにさせる。

 そしてついこの間、似たような惨劇がくり返されたのだった。

 

主権回復の日に「天皇陛下万歳」

http://togetter.com/li/495104

 

 下手な漫才というは、観客をいたたまれなくするものだ。

 しかしそれでも観客たちの反応を尻目に、延々と続けられてしまう。

「もはや笑うしかない」という悲劇ほど、おそろしく長く感じられるものはない。