アベノミクスについての懸念とメモ

 アベノミクスというネーミングに引っかかるが、とりたててリフレに反対しているわけではない。しかし、この政策(?)が成功するにはいくつかの懸念がある。

 

 まず、格差の拡大をどのようにおさめるか。

 高橋是清がリフレをやったときは、格差が大いに拡大し、貧しいものはさらなる貧困のどん底に突き落とされた。是清のリフレが昭和八年、その四年後に二.二六事件が起きていることが端的にそれを顕している。高橋是清は貧困拡大の元兇として殺害された。

 リフレを行う際にはむしろ貧困層への福祉を手厚くするべきだが、政府は逆に生活保護などの福祉を削減し、財政の再建を優先しているようだ。

 

 その財政再建には累進課税の強化による増税が必要なのだが、政府はそれを消費税の増税によって間に合わせようとしている。

 高橋是清は直接税強化の必要性をうすうす感じてはいたが、「左翼勢力を喜ばせるだけだ」という理由で見送ってしまう。間接税による収入は期待したほど伸びず、財政再建がならないままに大陸での戦線を拡大していくこととなる。軍による莫大な消費なくして、経済が回らなくなっていたからだ。

 間接税による増収と、軍によらない消費の拡大を期待するなら、それは人口の爆発を起こさせるよりほかない。

 

 人口を爆発させるには、少子化問題の解決が急務であることは火を見るよりも明らかだ。

 日本の人口は従来、女性の犠牲的献身によってのみ増大してきた。

「犠牲的献身」が期待できないのであれば他の方策が必要だが、それについては経済学は無力である。金をばらまけばいいというものでもない。金さえあれば子供が増えるのであれば、富裕層ほど子だくさんなはずだが、現状ではそうなっていない。過疎の村が「村おこし」をするとき、経済学者に相談したりなどしないように、少子化問題を解決する手段を経済学は持たない。

 かといって、無理矢理子供を作るように政令を発することなどできない。それでは先般アフリカで摘発されたような「赤ちゃん工場」や、旧ルーマニアの「チャウシェスクの子供たち」と五十歩百歩だ。

 そこで出てきたのが「女性手帳」という愚にもつかぬ政策である。せめて「この手帳を持っていると出産費用のすべてを国家が負担する」くらいの意気込みがあればよかったのだが。

 にもかかわらず、保守勢力は今も女性の「犠牲的献身」をいかに引き出すか、ということにのみ腐心している。

 それは、昨今の「慰安婦発言」に如実に現れている。

 

橋下氏慰安婦発言:「軍と買春はつきもの」石原氏が擁護

http://mainichi.jp/select/news/20130514k0000e010176000c.html

 

 こうしてみると、アベノミクスの障害は、他でもない保守勢力自民党であり、安倍晋三自身であることがわかる。

 

 昭和八年、高橋是清のリフレによって日本は世界に先駆けて不況から脱し、「繁栄の孤島」とまで称されるようになる。そうした経済的背景があったからこそ、強気で国際連盟を脱退することができたのだ。そしてその後何が起こったかはご存知の通り。

 同じ轍を踏まないようにするには、安倍晋三安倍晋三自身の思想を捨て、自民党自民党的なものから脱し、保守が保守的でなくなることが必要であろう。

 多少株価が上向いても、このままでは「年寄りの冷や水」程度の効果しか期待できない。

 

高橋是清 ―日本のケインズ その生涯と思想

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高橋是清と昭和恐慌 (文春新書)

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