真水育ちばんざい!Hooray for our team.

 資本主義の総本山であるアメリカという国で、バーニー・サンダースという社会主義を唱える男が大統領選に立候補して旋風を巻き起こしている。

 本命とされたクリントンと支持が拮抗し、少なからぬアメリカ人が彼を応援している。トランプばかりが目立つが、変化としてはこちらの方が重要だ。

 「社会主義」という言葉が四文字言葉と同じように扱われていたアメリカで、今になって社会主義が受容されるのはなぜか。

 それは最近になって急激に変化したわけではなく、ずっと以前からそうした土壌はあったのだ。

 カート・ヴォネガットの『国のない男』から少し引用してみたい。

 

国のない男

国のない男

 

 

 わたしは五大湖近辺の人間で、真水を浴びて育った。海辺ではなく内陸育ちだ。 だから海で泳ぐといつも、チキンスープのなかで泳いでいるような感じがする。

 わたし同様、多くのアメリカの社会主義者は真水育ちだ。ほとんどのアメリカ人は、社会主義者が二十世紀の前半にどれだけ社会に貢献したかを知らない。芸術、弁論、組織づくりといった面で、アメリカ人勤労者、労働者階級の自尊心や誇りや政治意識を高めるのにひと役買ったのだ。

 社会的地位や高等教育や経済力のない勤労者は知性も劣っている、というのは偏見にすぎない。それは、アメリカ史の重要な出来事に関わったすばらしい作家とすばらしい政治家を代表する二人の人物が自学自習の労働者だった、という事実を見ればわかる。わたしが言っているのは、もちろん、イリノイ州出身の詩人、カール・サンドバーグ〔一八七八ー一九六七年〕と、ケンタッキー州出身で、インディアナ州を経てイリノイ州に移ったエイブラハム・リンカンのことだ。言わせてもらえば、ふたりとも内陸の人間で、わたし同様、真水育ちだ。もうひとり真水育ちのすばらしい政治家は、社会党の大統領候補にもなったユージン・ヴィクター・デブズ〔一八五五ー一九二六年〕だ。元は機関車の機関士で、インディアナ州テラホートの中産階級の家に生まれた。

 真水育ちばんざい!

(中略)

 サンドバーグやデブズと同時代の社会主義者に会ったことがある。インディアナポリスのパワーズ・ハプグッド〔一八九九ー一九四九年〕だ。いかにもインディアナ州出身らしい理想主義者だった。社会主義というのは理想主義的な思想だ。ハプグッドは、デブズと同様、中産階級の家に生まれ、この国にもっと経済的な公平さがあってしかるべきだと考えた。そして、よりよい国を望んだ。それだけだ。

 ハプグッドはハーヴァードを卒業後、炭坑で働き、仲間を集めて組織を作り、賃金の引き上げと、安全な労働条件を要求した。またニコラ・サッコとバートロメオ・ヴァンゼッティという無政府主義者の死刑に反対する人々の先頭にも立った。一九二七年、マサチューセッツ州でのことだ。

 ハプグッド家はインディアナポリスにかなり大きな缶詰工場を持っていた。パワーズ・ハプグッドはその工場を引き継ぐと、労働者たちに譲ったのだが、工場はそのせいでつぶれてしまった。

 わたしがハプグッドとインディアナポリスで会ったのは、第二次世界大戦の終わり頃だった。彼はCIO(産業別労働組合会議)の役員になっていた。デモで起きた小競り合いについての裁判で彼が証言したとき、裁判長が審議を中断して、こう尋ねた。「ハプグッドさん、あなたはハーヴァードを卒業なさったのでしょう。そんな学歴のある方がなぜ、こんな生活をお選びになったんですか?」ハプグッドはこう答えた。「はい、キリストの山上の説教を実践したいと思ったからです。裁判長」

 もう一度言おう、真水育ちばんざい。

 

  そしてバーニー・サンダースも、ニューヨーク市で生まれたが、後にバーモント州に移り、バーリントンという市の1/3が湖の街で市長を務めた。

 ヴォネガットが生きていたら、なんとコメントしただろう?

 

 しかし、私自身はサンダースを支持するものではないし、その政策についても疑問を抱いている。今当選しても大勢の人たちに不要な失望を与え、かえってアメリカを右に揺り戻すことになるのでは、と懸念する。

d.hatena.ne.jp

 ここに挙げられているドーマンの批判はもっともなものに思える。

 だがしかし、アメリカは「理想」こそが建国の理念でもあるのだ。