日本人は情報と労働はタダだと思っている
その昔、山本某という偽ユダヤ人が、「日本人は水と安全はタダだと思っている」と煽ったが、水はとっくの昔にタダと思う人はいなくなり、安全についてもコストを支払うのが常識になった。
かつて井戸水を生活に使用していた人間は少数派となり、さらに水道の民営化が可能になっても何が問題なのかピンとこない有様である。マンションはややこしい管理マンションが人気で、通路には一切死角が無いように監視カメラが設置されている。
水も安全も社会を構成する基盤であり、それを「タダ」と考える通念は時代とともに失われたと言える。
しかし、21世紀に至ってもなお、「タダで当然でしょ?」というポケットティッシュのように扱われる「基盤」が、まだまだ存在しているのだ。
「情報」は、インターネットによって価値が暴落した最たるものだろう。
有益な情報も、有害な情報も、一緒くたにまとめて陳列される。有益な方に少しでもお高いようであれば、大方の人間が有害な方になだれ落ちて行くようだ。スーパーのタイムセールに群がる連中と大して変わらない。
インターネットがここまで広まる以前に、マーク・ポスターが『情報様式論』で、大衆は情報に金を払うのではなく、メディアに払っているのであり、情報そのものはタダだと思っている、と喝破していた。
その傾向はネットの発達によって、より一層強まったと言える。
なんと26人当選...「NHKから国民を守る党」拡大遂げる おひざ元・渋谷区にも議員誕生
https://www.j-cast.com/2019/04/22355950.html
↑ なんともあきれ返った事態となっているが、投票した人間はこの政党がどのようなことを訴えているかについて、ほとんど関心を持ってはいないだろう。
要するに、「NHKの受信料を払うのがイヤだ」というだけが、投票の動機なのである。
マスメディアの役割などを知る前に、「NHKなんか見てない」などと頭の悪いことを言うのがその証拠である。
こうした圧力に抗するためもあってか、NHKは政権に秋波を送り続けているが、受信料が存在するうちは反NHKな連中は減らないだろう。
本多勝一が不払いを煽ったイデオロギッシュな論理とは違って、現在は「ネットがあるのに、なんでそんな安くない金を払わにゃならんの?」という低レベルな動機に突き動かされているだけだからだ。
経団連会長“終身雇用を続けるのは難しい”
http://www.news24.jp/articles/2019/04/19/06429964.html
早期退職しない限り面接が続き…「45歳以上クビ切り」横行中
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190422-00010000-flash-peo
日本人は「労働」をタダだと思っている。
日本人が金を払うべきだと思っているのは、あくまで「仕事」であって「労働」ではない。
だから、「仕事に行ってくる」と家を出る人はいても「労働に行ってくる」とは言わない。「肉体労働」という言葉はあっても「肉体仕事」とは言わない。「労働者」という呼び名はあるが、「仕事」をする人間には、「職人」「一人前」「正社員」「専門家」「アーティスト」などの名があてられ、一様ではない。
だから、多くの人間が「労働運動」を嫌悪する。
自分がしているのは「仕事」であって「労働」ではない、という自負が無意識に存在するからだ。
では、「労働」を「仕事」へと昇華するものは何か。
それは、「愛社精神」などに代表される帰属意識であり、その根本にある「労働」というものを侮蔑する意識である。
つまり、「労働」という侮蔑すべき作業を無料で行うとき、日本人は「仕事」をしたかのような錯覚を得ることができるのだ。
サービス残業というものが、なかなか消え去らないカラクリがここにある。
残業しないで定時で帰れば「労働」だが、己の身を削って残業をこなしたとき、その「労働」は「仕事」となり、初めて負い目なく対価を受け取ることができるのである。
日本企業はこの「錯覚」を利用して成長を遂げ、その限界が見え始めると、さらなる「錯覚」を上乗せして「労働」の価値を押し下げようとしている。
そのわかりやすい例が、竹中某などに代表される新自由主義者の「みんな芸術家のように働けばいい」という論である。
その詭弁は、つまり「仕事」と見なせない「労働」は全部タダでいいじゃん、というものである。
こうした思考は、今も「新しい」ものとしてもてはやす若者がいるが、実は昭和の頃からある古臭い価値観でしかないのだ。
情報と労働はタダ、という意識が抜けきらないうちは、日本社会が袋小路から抜け出るのは難しいだろう。
- 作者: マークポスター,Mark Poster,室井尚,吉岡洋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2001/10/16
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